The Velvet Underground - Pale Blue Eyes / 『PERFECT DAYS』を見て

やっとその気になって、Wim Wenders監督の『PERFECT DAYS』を見ました。とても良い映画ですね。挿入歌もとても良かったです。本編での「Pale Blue Eyes」なんて最高でした。

記憶が新しいうちに、そしてまたいつか書くために、短くメモ書きをしておきます。


平山(役所広司が演じる主人公)の過ごし方には、なんというか、わかるところがあります。
自分の考え方に引き寄せて書くとすれば、それは「動きすぎないで多孔的になる」ということです。それは自分をとりまいているものに、確かに新鮮な目を向け続けようとする姿勢のことでもあります(もっと言うならば、shooshie sulaimanがいう「Fake」ということです)。
このことは、映画を通して平山が、動きすぎない存在、ある種のルーティン的存在でありながら、とても魅力的な存在として描かれていたことに示されていると感じました。ルーティン空間もまた、当然に孔だらけであり、そこには無数の入口と出口が存在しているのです。

ゆえに、多くの他者(トイレの利用者や同僚、姪っ子、木々、天候など)が、彼に影響をもたらす存在としてルーティンに入ってきて、そして出ています。そこにおける平山のあり方は、それらに対して開きすぎることも閉じすぎることもなく、ただそれらと「一緒にある (coexistence) 」という可能性を示しているものだと感じました。
そのことは例えば、トイレ掃除中に利用者が入ってくるシーン、それに続いてトイレ掃除を中断し、木洩れ日に視覚と意識をうつすシーンにおいて明快で印象的です。ある他者の侵入を起点として、異なる他者との多孔性へと開かれていくようなあり方が示されています。
ただ、それ以上に印象的だったのは、昼食時に同じような木々の写真を撮り続けるシーンでした。それは、他の人には同じに見えるものにおける差異を写真に撮り続けるということが、この数年間、僕も続けていることだからです(そうです。とうぜん、個人的な印象深さです。むしろそうでなければ書く必要がないのです)。僕にとってその対象は、たとえば足繫く通った大学キャンパスのある場所であり、かつては自室からの景色であり、今は天窓を過ぎていく空模様なのですがね。そろそろキャンパスともお別れの時期がやってきています。寂しいものです。ほんとうに、とても。

足繫く通った大学キャンパスのある場所 / Time Never Self-Contained

それはそうと、平山とニコ(姪っ子)との一連のシーンもとても魅力的なものでした。ニコは、上述した平山と他者の関係を客体化するうえで重要な存在となりました。
良い物語(表現形式を問わず)にはしばしば、年の差がある男女の慈しみ合いが描かれますが、そこにはなにか特別なものがあると感じます。映画館を出て、鴨川沿いであれこれと考えているときにはつい、村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』での「僕」とユキの関係を思い出していました。こちらは親族関係ではないのですが、すごく魅力的なものです。2人がハワイで過ごす場面などは、そこだけでも読み返したくなります。
補足ですが、村上はルーティン的な主人公を描くことの多い作家だと思っています。なので彼の作品を思い出していたことは、恣意や偶然によるものではないのだと考えます。はて、恣意や偶然によるものではないものって、いったいなんなのでしょうか。

さて、話が逸れてきたので、戻しながら終わります。今日は長く書くつもりはないのです。
「多孔性」というのは「制御」と「開かれ」の狭間を捉えようとする概念だと思います。そういうことをしばらく考えてきた者として、平山という存在は、デタッチメントやニヒルでも、あるいは過剰なコミットメント(?)でもないあり方として、とても魅力的に見えました(そして、このことは建築空間における今日的な問いだと感じています。60年代後半には原広司が「有孔体理論」で大きな問いとして示していたんですけどね。さて、また建築の話をし損ねました)。

映画でも描かれましたが、ときには怒りで声を荒らげたり、悲しみで酒や煙草をのんでみたりするものです。そうでなければ、心の震えを失うのだと思います。そして、それでも自己が孔だらけであることをポジティブに捉えられることがいくつかあるのだとすれば、それは素敵なことなのだと思います。あるいはそう思いたいのです。

Wendersと村上春樹、原広司が自分の周りをふわふわと引き合って浮かんでいます。これはいったいどこに向かうんでしょうか。一旦、着地させたい気がしますが、それはまた今度。

「今度は今度、今は今」

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